ニュース
ソフトバンクの24年度決算は増収増益、今後のAIへの取り組みを語る
2025年5月8日 21:54
ソフトバンクは8日、2025年3月期決算(2024年4月1日~2025年3月31日)を発表した。売上高は、前年比7.6%増の6兆5443億円、営業利益は同12.9%増の9890億円の増収増益になった。親会社の所有者に帰属する純利益は、同7.6%増の5261億円となった。
すべてのセグメントで増収増益となり、特に法人向けICTやAI計算基盤が属するディストリビューション事業の売上高は2429億円増加した。
同日開催された説明会には、代表取締役 社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏が登壇し、決算の概況や今後の同社の経営方針などが示された。
来期を宮川氏「言い訳なしで全事業増収させていく」
売上高の6兆5443億円について宮川氏は「中期目標を1年前倒しで達成した」と順調な推移をアピール。営業利益も中期目標の9700億円を1年前倒しで達成している。
2025年度の業績予想について宮川氏は「売上高は2000億円上方修正する」と説明。このまま推移すると「通信4社統合以来10期連続過去最高額を更新する」とし、天候に左右されるコンシューマー事業の電気事業を含めて「言い訳なしで全事業増収させていく」と自信を見せた。
1株あたりの配当金は、前年と同じ年間8.6円となった。
コンシューマー事業
コンシューマー事業では、2022年度を底に2023年度から2年連続で増収しており、2025年度も増収を見込んでいる。中期経営計画から1年前倒しで増収を達成しており、営業利益も2023年からの3年連続増収を見込む。
スマートフォンの累計契約数は前年から104万件増の3177万件。ソフトバンクとワイモバイルの移行状況を見ると、上期からソフトバンクへの移行率が高く推移しており、増収に貢献。5G端末比率は76%、5G接続率も34%とほかのMNO3社を上回り回線品質をアピールした。AI時代の到来などでトラフィック量が急増することが予測されるが、宮川氏は高品質な通信サービスを維持する方針を示す。
エンタープライズ事業は二桁成長へ
エンタープライズ事業の今年度売上高は、27%増の9224億円だった、引き続き年平均2桁成長を目指す。そのための注力テーマとして、2025年度は「AX(AI Transformation)インテグレーター」としての基盤構築を掲げた。
たとえば、カスタマーサポートを効率化する自社開発SaaSの新サービス「X-Boost」を1月に発表。顧客からの問い合わせに対して、生成AIが関連文章の要約をソースと共に提示することで、カスタマーサポートを効率化する。導入企業専用のAIモデルを構築し、AIによるコールセンター業務の自動化を進めていく。
ファイナンス事業では、PayPayがいよいよ上場へ
PayPayについて、宮川氏は「上場準備を開始した」と説明。今年度の数字について「事前勧誘と指摘されるリスクを避けるために、メディア・EC事業とファイナンス事業を合算して開示する」とした。
メディア・ECとファイナンス事業の営業利益は、3005億円で、2025年度は+10%の3300億円の成長を目指す。
2025年4月にはPayPayの元に金融ビジネスの再編が完了。宮川氏は「PayPayカードもPayPayの傘下で大きく成長している」と再編の効果を説明。今後は銀行と証券でも成長を加速していくとした。
SBペイメントサービスの決済取扱高は、前年度比+22%の9.8億円となった、中期計画では年平均成長15%超としており、2025年度も引き続き成長を目指すとしている。
今後の取り組み
今後注力する領域として宮川氏は「AIデータセンター」と「国産LLM(Sarashina)」、「ソブリンクラウド」、「次世代メモリー技術」、「クリスタル・インテリジェンス」を挙げる。
AIデータセンターについては、シャープ 堺工場の土地と建物の取得が完了し、今後AIエージェントの重要運用拠点として活用する。
国産LLMの進捗に当たっては、2024年11月に研究開発用のLLM(4600億パラメーター)が公開され、2025年3月に700億パラメーターまで高性能化、最適化(データ蒸留)した「Sarashina mini」の商用モデルが完成した。今後社内トライアルを経て今夏~今秋に商用提供を開始、来年度以降はさらなる大規模、高性能化したモデルの構築を目指す。
Sarashina miniの性能を宮川氏は3つの問いかけでアピール。日本の法令や習慣に関する問いかけでは、Sarashina miniがGPT-4oやGPT-4o miniよりも早くより性格に回答できた。
クラウド事業全体では、AIの技術運用の試験を同社自身で行うことにこだわっていきたいと説明、AIデータセンターの中にGPUやCPU、ストレージを設置し、必要となるソフトウェア群やアプリケーション、SaaSを開発し、「ソブリンCloud」、「ソブリンAI」としたAIプラットフォームを2026年以降順次サービスを提供していく。
次世代メモリー技術については、現状のAIデータセンターで今後中心となる推論をする際にボトルネックになっているメモリーについて、処理能力が高く省電力の次世代メモリーを開発することを明らかにした。
現在のAIの導入について宮川氏は「業務ごとの個別最適化を行っている」とし、経営全体に影響するものではないと認識を示す。同社では今後、各部門のAI同士が連携し、経営全体を最適化する「クリスタル・インテリジェンス」に取り組んでいる。同社内からまずは導入を開始し、宮川氏直轄の次世代戦略本部、次世代技術開発本部を設置し、取り組みを推し進めていくとしている。
主な質疑
説明会内の主な質疑を取り上げる。なお、大きなトピックスは別記事で紹介している。
――NTTドコモやKDDIの料金改定を見ると、サブブランドを縮小している傾向のように思えるが、ソフトバンクはどうなるのか?
宮川氏
サブブランドが儲からないとは思っていない。ワイモバイルのブランド力を入口に間口を広げ、ユーザーを拡大してアップセルしていく仕組みを進めている。
ユーザーにとっては、いろいろなメニュー(料金プラン)があればいいと思う。「そんなに使わないから安いプランで」や「たくさん使っていろいろやりたいから少し高くてもいい」といったさまざまなユーザーのニーズに合わせたサービスをしっかり提供していきたい。もし(他社が)サブブランドを縮小したいと本当に考えているのであれば、私どもとは意見が違うと思う。
――解約率がやや高くなっているように見える。要因は?
宮川氏
ワイモバイルでSIMのみ契約するユーザーのうち、短期間で乗り換えるユーザーが一定数いらっしゃったのが解約率高止まりの要因だと思う。
――「Sarashina mini」の商用利用について、対話型のようなものを想定しているのか?
宮川氏
法人個人こだわりなく提供していく、最初はチャット型の形で行こうと思っている。動画の生成などいろいろなことをできる準備はしているが、提供初日から公開することは多分ないと思うので、まずはテキストベースのものから、と考えている。
――Open AIが営利化を断念したとの報道があった。受け止めは?
宮川氏
ソフトバンクのクリスタルインテリジェンスには全く影響はないと確認できた。安全性への取り組みを強化する、という考えは非常に理解できるので、今後を見守っていきたい。
――PayPay上場の理由は?
宮川氏
個人的に、上場は少し早いと思っていたが、PayPay側に従業員のモチベーションや人材確保などである程度のステータスがほしいといった想いがある。私も「確かに」と、上場を成長できるチャンスと思い、結果的に賛成することにした。
ただ、ソフトバンクとして、PayPayが上場する際の意思、決定目的は語る立場にない。
――HAPSの開始時期について、現況は?
宮川氏
国土交通省と最後の大詰めの協議をしている。サービス開始の可能性があれば、早期にサービスしたいと考えているので、話が終わり次第、早々に発表会をしたいと思っている。