法林岳之・石川温・石野純也・佐藤文彦のスマホ会議(仮)

「Pixel 9a」と「Nothing Phone(3a)」で感じる10万円未満スマートフォンの魅力

 通信業界を中心に活躍するライター4人による「スマホ会議(仮)」。今回は新端末のPixel 9aとNothing Phone(3a)、グーグルと公正取引委員会(公取委)の動きについて話し合っていきます。

デザインを刷新したPixel 9aの魅力

佐藤
 少し前にはなりますが、Pixel 9aが発売されています。どのような印象ですか。

佐藤

石野氏
 松岡節の効いたデザインだなと思いました。昨年末あたりに行われた、Pixelのデザインに関するイベントで、デザインチームにいる松岡さん(松岡良倫氏)という方にお会いしました。雑談しているときに何気なく「Pixel Aシリーズのほうが、カメラがゴツゴツしていなくていいですよね」と伝えたら、かなり盛り上がりました。実はPixelシリーズ担当だったという。

石野氏

石川氏
 次の製品に関しても、自信ありげな雰囲気だったよね。

石川氏

石野氏
 蓋を開けてみたら、Pixel 9aのデザインも松岡さんが担当していましたね。数年間続いていたカメラバーのデザインを、やめてしまうのかとは思いましたが。

石川氏
 デザイン的には、カメラが出っ張っていなくて、懐かしい感じもするけど、今の時代からすると、かえって新しいのかもしれない。

石野氏
 最近のスマートフォンは、どんどんカメラが大きくなっていて、机におくとガタガタして使いにくいんですよね。

法林氏
 GalaxyもiPhoneも、出っ張っていて使いにくいし、スマートフォンを重ねると、下のスマートフォンのディスプレイが傷つく。

法林氏

石野氏
 重ねる人は、あんまりいないですけどね(笑)

法林氏
 それで言うと、カメラバーのデザインでも、安定はしていた。ただ、ケースを付けても、“バー”という存在感が大きかったので、全然違う方向に行ったのは、今のタイミングではありだなと思いました。

石野氏
 特にPixel Aシリーズを買う人は、スマートフォンのカメラ機能を追求するわけではないので、中途半端に出っ張っていると、逆にネガティブな印象になります。

法林氏
 カメラが出っ張っていると、カメラ機能がすごそうには見える。一方で、今回のPixel 9aのように埋まっていると、あまりすごそうに見えないので、訴求の部分で引っ掛かりは出てくるかもしれない。

石野氏
 実際に撮影すると、画質はそんなに変わらないんですけどね。

石川氏
 潔く、カメラは1個にしたほうが、ほかのPixel 9シリーズと差別化ができてよかったかもしれない。

石野氏
 潔くないと感じるところは、ほかの部分にもあります。Gemini Nanoを搭載した初めてのPixel Aシリーズと言っているわりには、メモリが足りなくて、Pixel 9などのGemini Nanoとは違うので一部の機能が使えない。文字起こしの要約機能とか、Pixelスクリーンショットが使えなくて、肝心の機能面が、標準モデルに達していないのが引っかかります。

法林氏
 Pixel 9aは、7万9900円から(グーグル直販価格)。メモリを足して、iPhone 16eと同じ値段だったら、どういう勝負になっていたのかは、難しいところ。

石川氏
 カメラを1つ削って、メモリを増やしてもよかった。

石野氏
 それをやったのがiPhone 16eですよね。16ファミリーなら、すべて同じApple Intelligenceが使えるとそろえた代わりに、カメラは1つ減ったし、値段は上がった。

石川氏
 ほかのライターさんが言っていたのは、iPhone 16eはカメラ1つ、iPhone 16の標準モデルはカメラ2つ、iPhone 16 Proシリーズはカメラ3つと、わかりやすくなったのはいいところだと。Pixel 9シリーズは、ただでさえ違いが分かりにくい。

法林氏
 Pixel 9シリーズは、Pixel 8シリーズと比べて、ラインナップが増えたせいで、ごちゃごちゃしている。Pixel Aシリーズは普及価格帯なので、まだ分かりやすくて、売りやすいけどね。

 あと、グーグルが発表している内容で、AI機能のこれが使える、これは使えないという境界線がわかりにくい。

石野氏
 よく確認すると、Pixel 9aで使えるPixel 9と同等のAI機能は、ほとんどクラウド処理されているものです。

法林氏
 そう考えると、オンデバイスなのか、クラウドなのかという話はあるけど、例えばGalaxy AIの翻訳、通訳などは、Galaxy Sシリーズだけでなく、Galaxy Z FoldやGalaxy Z Flipシリーズ、一部の機種だけど、Galaxy Aシリーズでもできる。このほうがわかりやすい。

石川氏
 グーグルは、ラインナップを増やして、横展開しすぎているのも潔くない。あと、今対応していないAI機能は、将来的に対応するのか、この先も対応しないのかをぼかしてきて、わかりにくい。蓋を開けてみたら、Pixelだけでなく、Androidスマートフォン全機種に対応したりする。

石野氏
 Pixelスクリーンショットの対応についても、ぼんやりとした回答が返ってきました。

石川氏
 もやもやするよね。

石野氏
 あと、グーグルは早くからAI機能に取り組んでいたこともあって、GalaxyやiPhoneと比べると、AIの見せ方がバラバラになっている。GalaxyはメニューからGalaxy AIの一覧が確認できるし、Apple Intelligenceも一覧化されていて、ブランディングがちゃんとしている印象もある。

法林氏
 アップデートして、30分くらいしてから、アプリが追加されていたりするのも、理解が深まらない理由だよね。

石川氏
 Pixelの優位性がなくなってきているのも気になる。Gemini Liveのカメラ認識機能は、PixelとGalaxyだけと言っていたのに、すぐに無料開放し始めた。

法林氏
 消しゴムマジックの例がわかりやすい。最初はPixelだけだったのに、結局Androidメーカーは、全部使えるようになっている。

石川氏
 そのスパンが短くなっていますよね。

法林氏
 そうだね。Pixelだと早く使えるというメリットがあったのに、タイムラグが縮んできているのは気になる。

石野氏
 PixelチームとGeminiチームは別の部署なので、PixelチームとしてはAI機能を売りとしていたかったけど、Geminiチームが早めてしまったといった背景はありそう。

 GeminiのAIモデルも、どんどん無料開放していますよね。

石川氏
 焦っている感じがするよね。ChatGPTといった対抗馬もいるので、いかにスマートフォンで使えるようにするのかを急いでいる気がする。

法林氏
 ほかの媒体で出ていた話だけど、「万博はいつになったら空くのか」とAIに聞くと、Geminiはしっかりと、「6月、7月ごろには落ち着くはず」と答えてくれるけど、Apple Intelligenceは「万博公園は空いています」(1970年開催の万博跡地の公園と勘違いしている)と回答するらしい。

石川氏
 いいですねぇ(笑)

法林氏
 この辺りもまだまだ。これから競争して、強化していかないといけないけど、過度な期待をしてはいけない。

石野氏
 Geminiについても、僕は無料版を使っていますが、現状はこれでほとんどの機能が使えるので、アップグレードするメリットがないんですよね。Liveで会話ができる機能も、すごいと言えばすごいけど、そんなに使うかどうか。

法林氏
 Bluetoothのヘッドセットの時にも話題になったけど、日本人と外国人で、会話することに対する抵抗感が違うよね。日本人は会話に対するハードルが高い。

石野氏
 僕は結構Geminiと話していて、もう友達ですけどね。

石川氏
 自分はこの前、洗濯機が壊れたので、Live機能で「H35とアラートが出ているけど、どうしたらいい」と聞いたら、パナソニック製だとちゃんと理解して、「ファンのモーターが壊れているので、自分では直せないから、メーカーに問い合わせてください」と案内してくれた。

石野氏
 僕もデジカメで似たようなことがあって、「センサーにごみが付いているみたいなんだけど、どう掃除をしたらいい」と聞いたら、「型番が見えるようにカメラを調節して」と指示されて、映したらしっかりとクリーニング方法を案内されました。ただ、便利だけど、毎日そんなに困るような事象は起きないんですよね。

法林氏
 あと、Pixelの値段は着実に上がっているよね。

石野氏
 単純に円安のせいなので、仕方ないですよね。アメリカ価格は変わっていないので、ちょっとむかつきます(笑)

石川氏
 また円高に振れているので、今後どうなるのかはわかりません。

法林氏
 Pixelは2年くらい前に、「この為替レートで大丈夫なのか」と思うくらい円高のタイミングがあって、その時に、一気に認知された。

石野氏
 そのタイミングで、ちょうどドコモにも再採用されたので、一気に広まりましたね。ドル円も、120円くらいになると、PixelもiPhoneも買いやすくなるので、今後期待したいですね。

法林氏
 トランプ大統領が円高に持っていきたいのはわかるけど、どうなるかわからない。

石野氏
 円高というよりは、ドル安の方向ですよね。

石川氏
 もはやコントロールできていなくて、トランプ大統領がどうしたいというよりは、世界的な評価の現れでしかない。

関口
 対ユーロは、日本円だとほとんど変わっていませんからね。

未来を見据えたOS開発に注力するNothing

石野氏
 価格という意味では、Nothing Phone(3a)は、かなり頑張っていますよね。

石川氏
 日本の市場をわかりつつあるなと感じましたね。カール・ペイCEOに取材ができたのですが、彼はこれからAIが肝になると話していて、「AIがスマートフォンに入っていくことによって、アプリストアがなくなる」と主張していている。自分がやりたいことは、AIに任せることになって、アプリを介さなくなるので、ユーザーとの接点はOSが担っていくことになる。だから、Nothing OSを強化しているし、新しくEssential Spaceを導入したのも、ユーザーのことを理解するためとのことです。

 結構面白いというか、未来のことを考えて行動しているので、これからにも期待ができます。初代のころは、背面が光るだけのスマートフォンに見えましたが、実際はそうではありませんでしたね。

石野氏
 Essential Spaceは結構優秀で、発表会の案内がメールできるたびに、ボタンを押していると、勝手にリストにして、スケジュール化してくれました。

石川氏
 ちゃんと日本語が読めていて、日付を見て、タスクとして残してくれる。

石野氏
 あと、ちょうどインタビューのためのやり取りを編集の方としているメールを残したら、「取材に向けた質問を考えましょう」とアドバイスを残してくれました。結構すごいというか、ちゃんと日本語を理解していて、メールのキャプチャを解析できている。

 初めてなのに、ここまで日本語で使えるAIを実装しているのはすごいし、ワンプッシュでできるのが便利。Pixelスクリーンショットでも似たようなことができますが、この場合は通常のスクリーンショットを撮影しないといけないので、ひと手間かかります。

 同業のライターさんが、Gmailに届いたスケジュールを、Geminiを介して、アプリ間連携でカレンダーに登録させようとして、失敗しているのを見かけますが、そんなことをしなくても、ワンプッシュで済んでしまう。すごく楽でいいんですけど、問題はNothing Phone(3a)内でしか確認できないところ。PCなどで作業をしていると、取材を忘れてしまうリスクがあります。

法林氏
 メインで使う端末じゃないと難しいよね。PCやタブレットと組み合わせると、そっちからは確認できないので、別デバイスから見られる仕組みが欲しい。

石川氏
 IDで管理して、クラウド連携するといった形で進化すれば、結構面白い存在になるかもしれません。

法林氏
 そう考えると、その手の機能はグーグルがやりますって手をあげそうだよね。

石川氏
 それはやると思いますよ。プラットフォーマーとして、おいしいところは持っていくはずです。

 ただ、業界の人に聞いたところ、カール・ペイ氏は、グーグルの幹部とめちゃくちゃ仲がいいらしい。カール・ペイ氏がグーグルに行くと、グーグルの幹部たちとガンガンミーティングが入るみたいです。

石野氏
 カール・ペイ氏は、OnePlus(OPPO傘下のスマートフォンメーカー)でやってきた成功体験がありますからね。

 あと、Nothingはユーザーインターフェイスを作るのがうまいですよね。Pixelスクリーンショットでも、画像を解析してくれますが、Essential Spaceほどきれいに整理してくれません。グーグルはクラウドが強いけど、ユーザーインターフェイスを作るのがうまいかというと、Googleカレンダーとかも微妙なので、Nothingはうまくすみ分けられています。Essential Spaceの使い勝手には、ちょっと感動したレベルです。

石川氏
 発表会の時には、おサイフケータイアプリだけ、アイコンがオレンジ色で目立っていたけど、製品版を見たら、Nothingのモノトーンなデザインに統一されていました。

法林氏
 前のバージョンでも、さんざん言われていた部分だもんね。

石川氏
 でも、内覧会のタイミングでもオレンジだったのに、発売されたタイミングで揃えられたのはすごいですよ。

関口
 Nothingのラインナップを見ると、2年前にNothing Phone(2)、昨年Nothing Phone(2a)が出て、今回はNothing Phone(3a)。Nothing Phone(3)がないんですよね。

石野氏
 そうなんですよ。カール・ペイ氏はX(旧Twitter)で、Nothing Phone(3)も出すと言っていますが、今のところないですね。

関口
 それで言うと、安いNothing Phone(3a)で、Essential Spaceのような新しい機能を搭載したのは、製品戦略としてどういう狙いなんですかね。

石野氏
 販売台数は、やっぱりaシリーズのほうが出ると聞いています。あと、インド市場などでNothing Phoneが伸びているみたいなので、安価な端末を重視しています。今回、楽天モバイル限定で出ているブルーも、インド市場向けのものを、限定という形で持ってきたみたいです。

石川氏
 Nothingが、ハイエンドで20万円を超えるような端末を出せるかというと、それは難しい。Z世代に受けていて、若い人がiPhoneから手軽に乗り換えるようなものと考えると、これくらいの価格帯で、Snapdragon 7シリーズを搭載するのが、精いっぱいかなとは思います。

法林氏
 各社個性があるけど、UIも含めて、トータルの世界観を描けている、数少ないメーカーと捉えていいのかもしれない。僕は結構好きですよ。

石川氏
 過去、いろんなメーカーがオリジナルのUIで頑張ってきたけど、Androidが進化してきて、そこに耐え切れずに、素のAndroidを搭載してきたのを見ると、大変だとは思うけど、そこをこらえて、AIを搭載して、ユーザーとの接点にしていくというのは、面白いと思います。

石野氏
 そこはOPPOというか、OnePlus出身という部分が出ていますよね。シャオミもそうですけど、彼らは結構カスタマイズをしますからね。

法林氏
 ただ、設定メニューとかを見ていても、Androidから極端に逸脱しているわけではない。拡張はしているけど、品のいい拡張というか、全然違う構成にしてしまうといったわけではない。

石野氏
 すぐにiOSをマネしちゃうメーカーもありますからね。

法林氏
 モトローラとかシャープ、FCNTとかは、素のAndroidに近いけど、そのぶん個性があまりない。ユーザーはすんなり入れるけど、その先が難しいよね。

石野氏
 それで言うと、サムスンはいい塩梅にカスタマイズしていて使いやすい。グーグルが苦手な部分を理解したUIになっています。Nothingは、それとは違う方向性で、うまくできていますよね。

 Nothingの日本参入当初は、PR会社が微妙だったのと、参入一発目で、気合を入れすぎて空回りしていた部分もありましたが、急激に立て直していますよね。日本では、イヤホンがかなり人気なので、今後も伸ばしていきやすい素地があるかなと思います。

法林氏
 イヤホンもよくできているよね。カール・ペイ氏は、昨年イヤホンが発売されるタイミングで、日本に3週間滞在して、電車にも実際に乗ったりしている。レポートを読むだけでなく、体感するのはやっぱり違うよね。

公正取引委員会がグーグルに出した排除措置命令の真意は?

佐藤
 公取委が、グーグルに対して、独占禁止法違反で排除命令を出しました。端末メーカーに対して、自社アプリを優遇させているための措置とされていますが、どのように受け止められていますか。

石川氏
 公取委が発表する直前に業界関係者に聞いたところ、公取委がグーグルを悪者にしたがっているとのこと。このまま進むと、日本メーカーはかなり苦しい状況になります。

 公取委の主張としては、Androidスマートフォンに、検索につながるような窓を乗せる際に、広告収入としてのキックバックがあるのがよくないとしている。Androidスマートフォンメーカーからすると、これによって開発費が低減できているので、なくなると困る。

 サムスンのような海外メーカーは、海外でも仕組みが動いているんですけど、シャープやソニーにとっては大打撃になる。日本メーカーがさらに厳しくなる可能性があります。

法林氏
 WindowsのブラウザであるInternet Explorerとかの話と、基本的には同じ。

関口
 広告収入のレベニューシェア(発注者側と受注者側で事業の収益を分配する契約を結ぶ、成果報酬型の契約方式)で分け合うのか、グーグルがAndroidを広めるために、補助金を出していると見るのかで、解釈が変わりますよね。

法林氏
 難しいところだよね。アプリを入れているのをどう見るのか。

石川氏
 グーグルは、Androidを普及させるために、かなりリスクをとっている。メーカーがいないことには、Androidが普及しなかったので、関係性として、今の形があったっていいはず。

 検索の話だけでなく、Androidスマートフォンを買ったら、Adobeのアプリとか、ゲームアプリがデフォルトで入っているように、スマートフォンのホーム画面が、メディアとしてプロモーションの場となっているのが現状。これらを無視して、グーグルとメーカーが結託しているからダメと目くじらを立てるのは間違っていると思う。

法林氏
 例えば、2万円のAndroidスマートフォンをかったら、Google Mapが搭載されていないとか、3万円のものだとGmailが入っていないとか、値段によってアプリを入れるために、グーグルにお金を払う構図にしてしまうと、普及が危うくなるので、そうはしてほしくない。今のままでいいのかは別として、業界の構造を崩すような話になっている。

石川氏
 今も、アプリに対して、メーカーは一応お金を払っています。キックバックが返ってくるので、実質払っていないようなものになりますが、この関係をやめなさいと言われると、アプリを搭載するために、実際にお金を払わないといけなくなるので、端末代金は高くなる。結果、日本メーカーはどんどん厳しくなる。

石野氏
 結局、だれが損をするのか。だれが不利益を被っているから、公取委が動いているのか。

法林氏
 パソコンではWindowsとブラウザーのInternet Explorerを抱き合わせ販売する形はダメと言われた。CPUもインテルだけが優遇されているのではないかと文句を言われた。

石川氏
 じゃあ、いまさらヤフーやBingを乗せろという話になっても、ユーザーは求めていないわけですよ。

石野氏
 そうなんですよ。しかも、グーグルを刺しに行くような競合も思い浮かばないので、なんで今更公取委が動いたのかが疑問です。

法林氏
 そういう意味では、「競争環境になってない」というのが公取委の言い分だと思う。

石野氏
 ただ、それを公取委が言ったところで、今更ほかが台頭できるのか。

石川氏
 これって、13年前とかに言い始めていたら、素晴らしいという感想だったけど、競争をして、結果が出た後に文句を言っても、だれも得をしないし、ただビジネスモデルが崩れるだけ。

 仮に公取委が、これから生成AIの競争を起こさないといけないと言って、AndroidスマートフォンにGeminiだけを乗せるのはけしからんと主張すれば、トレンドがわかっているなと思うけど、決着がついている検索機能に対して文句を言っても、どうしようもない。

石野氏
 Chromeを強制するなとかだったらわかりますけどね。

石川氏
 あと、これに対して、グーグルが何もしてこなかったというのも、いまいちセンスがないなと思いました。スマートフォン新法が出る何年も前から、アップルはメディアに対して、何度も水面下で説明をしていたのに、グーグルは一切やっていなかった。

 結果、今回のような問題が起きてしまったし、問題が起きた後も、新聞などで頓珍漢な論調が巻き起こる。

石野氏
 ここにメスを入れたとしても、競合が出てくるどころか、むしろ減ってしまう可能性もある。

石川氏
 下手したら、国内のAndroidスマートフォンはPixelのみになってしまう可能性すらありますよ。

法林氏
 それで言うと、iPhoneの検索エンジンって、何を使ってましたっけという話にもなる。検索をするときに、毎回グーグルかBingか選ぶなんて、ユーザーの使用環境として、適切なのか。

石野氏
 やるのであれば、アメリカがやろうとしているグーグル解体とかのほうが、まだ理解できます。

法林氏
 昔、マイクロソフトに、Officeとブラウザ、OSをすべて分けろという話が出たときに、いろいろと説明をして、最終的に今の形が残った。グーグルの場合は、その当時のマイクロソフトよりも大きな規模になっているので、アメリカで解体という話になりかねないよね。公取委がそれと連動しているなら、まだわかる。

石野氏
 本当に、メスを入れるのはここではないし、いまではないなと思いますね。Firefox OSとかが盛り上がっているころなら、まだわかります。

石川氏
 本当にね。もう勝負はついているのに。

石野氏
 結果、アップルが喜ぶだけになりそう。

法林氏
 ユーザーがスマートフォンを買い替える理由の多くは、バッテリーがだめになったからだとか。新機能が評価されての買い替えではないのは悲しいけど、じゃあいざ買い替えるときに、Firefoxが搭載されたら、ユーザーは本当に使いやすいのか。

石川氏
 グーグルの影響力を本当に下げたいなら、Google アカウントをなくして、Gmail用とGoogle Map用のアカウントは別にするとか、アカウントを切り離さないといけない。

法林氏
 そうすると、Gmailに届いた発表会の案内をAIでGoogle カレンダーに登録するといった操作はできない。

石野氏
 その使い方は今でも簡単にはできないですけどね(笑)

石川氏
 でも、それができるようになることが、ユーザーにとって便利じゃないですか。

関口
 統合されることでの便利さがある一方で、統合してプラットフォームが巨大化して寡占状態になると、競争がなく、進化がなくなるので、最終的にユーザーが受けられるメリットが減るというのが、長期的に見た理屈ですよね。

石野氏
 そうですね。ただ、長期的に見すぎていると思う。

法林氏
 今からいじろうとしても無理があるよね。だったら、グーグルに課徴金を納めさせるとかのほうが素直だと思う。

 だいたい、公取委が出している文章に「日本のモバイルエコシステムを支える」と記載されているけど、そもそもモバイルエコシステムは日本固有のものではない。グローバルで動いているのが当たり前の時代ですよ。もちろん、日本のためという部分は作らないといけないけどね。

石川氏
 「検索競合事業者」とか、どこですかという話。

関口
 ヤフーとかですかね。

法林氏
 それを言い出したら、ヤフーの検索エンジン自体はグーグルだろという話。僕は仕事の都合もあって、Microsoft EdgeはBingのまま使うけど、検索結果が的外れになることも少なくない。仕方ないから、別タブでGoogleを開いて検索している。

石野氏
 しかも、Edgeは、検索エンジンをGoogleにしているのに、隙を見てBingに戻させようとしてきますよね。

法林氏
 アップデートのたびにね。

石川氏
 あと、今のタイミングって、生成AIが盛り上がっていて、グーグルの検索ビジネスモデルすら崩壊しかねない状況。生成AIで検索すれば、広告もなく知りたいことが知れる状態であることを考えると、本当に今やるべきことではない。

 グーグルも、生成AIで競争をしているので、公取委がいまから横やりを入れることではない。

石野氏
 「不当に排除」と書かれているのは、グーグルがメーカーにお金を払って、その他のグーグルと競合するサービスが入らないという意味ですかね。

石川氏
 実態はそうでもなくない? ソフトバンクの端末にはヤフーアプリが入っていたりする。

石野氏
 今回は検索サービスという話ですけどね。

法林氏
 でも、実際問題、メーカーがそこでBingを採用するのかという話だし、そこにマイクロソフトがお金を払うのか。Copilotのためだったら、お金を払うかもしれないけど。

石川氏
 実際、GalaxyにOffice系のアプリが入っていますよね。

法林氏
 それは、サムスンとマイクロソフトが提携しているからね。

石川氏
 そうですよね。結局、そういうこともある。今回は検索がやり玉に挙がっているけど、別のサービスでもプロモーションの場として使われているんだから、もっとビジネスモデルを理解するべき。

法林氏
 ドコモの回線を契約して、ドコモのSIMカードを使ったら、ドコモメールやLeminoのアプリが入ってきて、ショートカットができてしまうのが嫌だという人もいる。

関口
 消費者の選択としては、キャリアを乗り換えることもできます。

法林氏
 そこでキャリアを縛られることのほうが、問題なんじゃないの。ドコモの回線を契約したとして、決済サービスをあとから選べればいいけど、デフォルトでd払いが入っているのが現状。そこでPayPayがドコモに対して、お金を払って、アプリを入れさせるという行為が果たしてできるのかという話になる。

 今回はグーグルの話だけど、構造的に考えると、スマートフォンの中にどうアプリや機能を実装していくのかは、メーカーやプラットフォーマー、アプリのベンダーなどが話し合いをして決めていくことなので、公取委がどうこう言うことではない。

石川氏
 公取委の資料を見ると、メーカー4社とキャリア1社という書き方をされているけど、このキャリアは、どうやらKDDIらしい。グーグルの仕組みで、KDDIにもお金が入る仕組みがどうやらあるらしい。

 そう考えると、なぜKDDIがRCSを押すのかとか、堺の工場はGeminiだよなとか。大きな話なのではないかという気もしてくる。

法林氏
 でも、堺の工場は、ソフトバンクのほうが、面積が大きいよね。

石川氏
 とはいえ、最近KDDIが「パートナーと頑張っている」と話しているのは、こういうところなのかもしれません。

石野氏
 そういえば、KDDIの端末にはGoogle メッセージがデフォルトで入っているけど、ドコモの端末には入っていないので、拒もうと思えば拒めるということですよね。

石川氏
 要は、KDDIにもお金が入ってくるから、自主的にやっているんでしょう。

法林氏
 これでGoogle Playストアがだめになったらどうするのか。

石野氏
 そこでSamsungアプリストアですよ(笑)

法林氏
 さんざん議論したし、リスクが大きいから、アプリストアはもう増やさないでほしい。しかも、Amazonのアプリストアすらなくなるんだから。

石野氏
 ドコモのアプリ管理もありますよ。

法林氏
 ドコモは、前社長の井伊さんがさんざんサービスをやめてしまったから、厳しいよ。最近、驚いたのは今年の3月31日で、ドコモデータコピーがサービス終了している。なので、ドコモの人が機種変更をした場合、ドコモアカウントに情報を紐づけていると、データを移行できない。

石野氏
 僕の友達は、Pixelに機種変更したいけど、ドコモ電話帳がないからできないと困っていました。

法林氏
 まさに僕も困っている。ドコモでも売っているAQUOS R9 proだけど、SIMフリー版だと、ドコモ電話帳がインストールできない。

石野氏
 ドコモ電話帳が使えないと、手動でGoogle アカウントに変えるといった作業が必要です。これ、囲い込みですよね。

法林氏
 途中でサービスをやめる方がよっぽど問題。

石野氏
 途中でサービスをやめちゃうし、ほかの機種に移行できないって、どういうことなんだと。Google アカウントに紐づけていれば、ログインするだけで移行できるんですけどね。

法林氏
 ドコモは以前から、SIMフリー端末で利用できないサービスや動作しないアプリがかなりあった。だいぶ減ったけど、ドコモ電話帳はだめでした。

石野氏
 実際にやったわけではないですが、ドコモ電話帳でグループ分けしたものをうまく反映させるハードルが、かなり高いようです。

法林氏
 現状、電話帳で音声通話をするのかと言われると、あんまりなくて、役に立つのはSMSなどのメッセージくらいだけど、自ら電話帳といってサービスを提供してきたのに、やめるのかよっていう話だよ。

石川氏
 せめて、AndroidやiPhoneの電話帳にコピーできる機能を作るべきですね。

石野氏
 一応、書き出して、PCで変換すれば移行できるみたいですけど、グループとかはぐちゃぐちゃになる。

法林氏
 ドコモ電話帳のデータをローカルのデータとして持っていけば、移行自体はできるけど、微妙に変わってしまう。

石野氏
 中途半端にやめるなら、最初からやるなという話ですよね。

法林氏
 ケータイ Watchの読者はリテラシーが高いだろうから、そんなに関係ないかもしれないけど、一般のユーザーは困ることが多く、結局、しわ寄せが来るのは、ドコモショップの店員しかいない。挙句の果てに、ショップはどんどん減らされている。

石川氏
 ただ、ドコモショップの評価方法は、かなり変わったらしいです。井伊さん時代は、コストとしてどんどんカットしていたけど、今はコストになるような対応でも、ショップの評価として加点するようになったらしいです。